明治中期の和歌山県紀伊大島の樫野地区。この地に暮らす医師・田村(内野聖陽)は、貧しい者を親身になって診察することから村民の信頼を集めていた。彼の
傍にはかつて許婚を海難事故で亡くし、そのショックから口がきけなくなったハル(忽那汐里)が、いつも助手として付き従っていた。
1889年親善使節団を乗せたトルコ帝国のエルトゥールル号が、イスタンブルから日本へ向けて出港した。帝国の威信を欧州に示すため、また明治天皇へ
の謁見のための航海だった。船には名家の出であり海軍機関大尉のムスタファ(ケナン・エジェ)も乗り込んでいた。機関室を仕切るのは、部下の信頼厚い操機
長のベキル(アリジャン・ユジェソイ)。長い航海の中で、ムスタファとベキルは階級を超えて、お互いに認め合い、友情が芽生えていった。翌年6月に天
皇に謁見しスルタンの親書を渡し、同年9月親善使節団としての使命を終えて帰路についたエルトゥールル号は和歌山県樫野崎沖にて台風に遭遇。暴風雨の中、
推進力が頼りとなり機関室への負担が増す。何とか持ちこたえようとベキルは必死に機関室を守るが、彼の奮闘も虚しく船は樫野崎沖で座礁、水蒸気爆発を起
こす。島中に響き渡る船の爆発音を聞いた村民たちは岸壁に集まった。そこで発見したのは、漂着した膨大な数の死体と船の残骸だった。進んで漂流者を助ける
べく荒れ狂う海へと飛び込んでいった漁師の信太郎(大東駿介)を先頭に、村民は総出で救出活動を行う。田村とハルも救護所で、膨大なけが人の手当てに追わ
れた。田村を敵視する島の医師・工藤(竹中直人)や遊女・お雪(夏川結衣)も治療や看護に協力し、村民が一丸となっての救助作業が続く。意識を失い、海中
に沈もうとしていたムスタファは、信太郎によって助け出された。救護所に運び込まれたムスタファは呼吸が止まっていて、その姿に亡くなった許婚の亡骸を重
ね合わせたハルは茫然とする。田村に檄を飛ばされ我に返ったハルは、懸命に心臓マッサージを行い、やがてムスタファは息を吹き返した。翌日、生き残った乗
組員は69名と判明。操機長のベキルを含め、実に500名以上が犠牲になった大惨事だった。村長・佐藤(笹野高史)は、亡くなった人すべてに棺桶を用意
して丁重に弔ってやりたい言い、村民は蓄えてきたわずかな食料も提供して、生存者の看病に当たった。意識を取り戻したムスタファは、自分が生き残ったこと
に罪悪感を覚えて苦悩する。その彼を、言葉はわからないながらも支えようとするハル。やがて応急手当てを終えた船の生存者は島から移送されていったが、ム
スタファは行方不明者の確認と遺留品の回収のため島に残った。漂着物を綺麗に磨いて母国の遺族に返そうとしている子供や女たちの姿、懸命に不眠不休で治療
に当たってくれた田村、死の淵から生還させてくれたハル、自分を海中から救ってくれた信太郎、そして死者に対して礼を尽くす村民たち。ムスタファの胸には
人を想う日本人の深い真心が刻まれたのだった。
1985年のイラン・テヘラン。イラン・イラク戦争の停戦合意が破棄され、空爆が続く地下避難壕でトルコ大使館の職員ムラト(ケナン・エジェ)と日本人学
校の教師・春海(忽那汐里)は出会い、協力してけが人の治療に当たった。別れ際、ムラトは春海の無事を祈りお守りを渡す。膠着する戦時下で、サダム・フセ
インが48時間後にイラン上空を飛行するすべての飛行機を無差別攻撃すると宣言。日本大使・野村(永島敏行)は外務省に救援機を要請するが、就航便が無
かった日本では迅速な対応が難しい状況にあった。春海と日本人学校の校長・竹下(螢雪次朗)は生徒たちの安否を確認し、国外退去の手続きを取るように伝え
て回っていた。その間にも他の国々では救援機が到着し自国民を乗せてテヘランから脱出、徐々に日本国民だけが取り残されていく。日本大使館を訪れた春海と
竹下は、野村から打つ手がないことを知らされる。トルコの救援機が最後の搭乗になることを知った春海は、トルコの救援機に日本人が乗れるよう頼んでほしい
と野村に進言。日本の官民からの要請を受けたトルコのオザル首相は、自国民を危険にさらすことになるという周囲の反対を押し切り、日本人の為の救援機の追
加派遣を決断する。この報を聞き、春海はテヘラン脱出を諦めていた日本人技術者・木村(宅間孝行)の家に向かった。本当にトルコの救援機に乗れるのか、不
安を抱く木村の家族と空港に向かう。ところが街は脱出しようとする人でごった返し、混乱を極めていた。その中で春海はムラトと再会、一緒に空港へと向か
う。しかし、空港へ到着して安堵したのもつかの間、そこには救援機を待つトルコ人たちで溢れていて、それぞれがチケットを求めてカウンターに詰め寄ってい
た。その状況を見た日本人たちは、飛行機に乗ることを諦めかける。そのときムラトが進み出て、チケット取得に群がるトルコ人に向かって語り始める。「今、
絶望に陥っているこの日本人を助けられるのはあなたたちだけです。決めるのは、あなたの心だ」と。その言葉を聞いたトルコ人たちは、かつて日本人が示して
くれた真心を思い出していく。